アラサーOLの備忘録

東京に暮らすアラサーOLです

わたしの髪さま

タイトルは誤字ではない。ついでに言うと、宗教の話でもない。 癖の話だ。

 

わたしの一番の癖は手や首の関節を鳴らすこと(クラッキング)。やり始めた頃は家族も「みっともないからやめろ」と怒っていたが、慣れたのかもはや何も言わない。友達から「これから殴り合いに行くような素振りにに見える」と指摘されたこともある。電車に乗っているときに関節を鳴らしても、乗客がこちらを見ないのはそのためだろうか。

 

前置きが長くなったが、いま悩んでいるのはその癖ではない。もちろん、関節鳴らしが身体に負担をかけていることはわかっているが、集中しているときなどは制御できる。自己責任だと思ってやっているのだ。ただ、最近悩んでいる「抜毛症」についてはその範囲ではない。これは何なんだろうな、と思いながらひたすら頭髪を抜いている。

 

抜毛症とはその名前が示す通り、頭髪を引き抜く症状(癖)らしい。病気なのか癖なのか素人にはわからないが、もうずっとこれを繰り返している。お陰で頭のてっぺんには10円ハゲができそうだ。美容師が心配していた。

 

髪の毛を抜くのは時間、場所を問わない。右手でスマートフォンをいじったり、読書をしたりしつつ、左手で髪の毛を触る。黒い壁やドア、スーツを着た人などを背景に自分の明るい茶髪を見る。ああ、また枝毛があると思って根元から抜く。枝毛がなくても、チリチリしたり、うねっているような毛は抜く。パーマをかけているのだから、髪がまっすぐでないことは分かっているのに止められない。なぜか半年前からそんな風になってしまった。精神的には安定してきたのに。抜いた髪の毛は誰も掃除しないので、床にこんもりと溜まる。カフェや図書館の清掃員にとっては迷惑な客だろう。

 

ある日、とある商業施設のソファに座りながらスマホをいじっていた。それは左手で髪をひたすら抜いていたときでもあるのだが、見知らぬおばさんに突然声をかけられた。一瞬「怒られる!」と焦ったが、おばさんは怒っているわけではなかった。「あなたとおんなじ人、『アンビリーバボー』で見たわよ!」と。え、とビックリして固まってしまい「あ〜〜、フジテレビのですか」とよくわからない返答をしてしまった。

 

おばさん「日本の人じゃなくて、外国の人だったけどね」

わたし「あー・・・そうだったんですね」

おばさん「あたま血ぃ出てるよ!10円ハゲもできているし」

わたし「やー・・・、そうなんですよね」

おばさん「心療内科とか行ったら?心療内科って言ってもさ、色んな人が行ってるんだから!」「まだ若いんだからさ、ポジティブにいかなきゃ!」

 

おばさんはそんなことをほぼ一方的に話して、去っていった。わたしは呆然として「もう休職して心療内科に行っている」とは返答できなかった。気持ちを落ち着かせようと、カバンにしまってあった本を読み始めた。それまでも読んでいたのに、ドキドキしてなかなか頭に入ってこなかった。世の中には様々な見た目の人がいて、見ぬ振りをしている人もたくさんいる。しかし、たまにはおばさんのように「あなたのこと見てるよ。認識しているよ」と言ってくれる人もいるのだ。それは嫌な気持ちになるものではなかった。

 

心療内科で抜毛症のことを相談したら「あー・・・難しいんですよね」と、医者が困ったような顔をしていた。女子学生に多いが、根本的な原因はよくわからない。刺激が良いという子もいる。「どうしても抜くなら、切るしかない」と言われたけれど、わたしはショートカットのときも抜いていたので意味がなさそうだ。抜きすぎないように気をつけるしかない。

 

おばさんに出会ってから髪を抜く癖がピタッと止まったわけではない。多少人前で抜く回数が減ったかな、と感じるくらいだ。しかし、きっと意味のある出会いだったのだろう。いずれわかることだ。

 

そういえば、歌手のさだまさしも「いつまでも、あると思うな、親と髪」との名言を残している。あのおばさんは、もしかして髪をもっと大事にしろっていう神(髪)さま?だったのかな、と信仰心の薄いわたしは罰当たりなことを考えてしまう。しかし、そんなバカなことを考えられるわたしはきっと大丈夫だとも思ってしまうのだ。