向いている・向いていない
「〇〇さんは編集に向いていると思う」
社員相談室の美しいお姉さんは、わたしに向かってそう言った。
梅雨入りが発表された日。
会社の20階から見える雨雲とヘリポートが、やけにゆがんで見えた。
わたしが編集に向いている?
「どういうところが?」と聞いておけばよかった。
彼女の言葉は編集に全く未練がないわたしを、ひどく困惑させた。
編集は書籍、雑誌、新聞などのメディアにとって、欠かせない部署だ。
朝から晩までガンガン仕事をして、終電に間に合わずタクシーで帰る。
残業時間を真面目に書いたら100時間を超えて、産業医に呼び出されたこともあった。
だが、その時はそれすら忙しくて、呼び出しを無視した。
だいたいの関係者が偉い人なのでパンプスで歩く。これが地味に痛い。
メディア業界の人気がなくなるのも肌で感じている。
みんなわかるのだ。外から見ても、内から見ても大変な仕事だということが。
しかし、総務あたりに復帰しようとしていたのに、そんなこと言われると悩むよ。
お姉さんよりわたしの方が編集の面白さ・大変さについて知っているよ。
部長がさっさとわたしを編集に取り戻したい気持ちもわかるよ(人手不足だから)
でももう疲れたの・・・薄給でも昼食とかゆっくり食べられる仕事がいいの。
向いている・向いてないを決めるのはわたしなんだよ。