母ががんになった1
母ががんになった。
その事実はわたしの心を混乱させた。どれくらい涙を流したのだろう。流した涙を貯めたら、きっと1リットルくらいになる。それくらい泣いた。
きっかけは2020年9月11日(金)に母から来たLINEだ。
「長崎、行けなくなるかもしれない。甲状腺の具合が悪いのよ」
「夜電話するわ」
9月のシルバーウィークに、母とわたしは長崎旅行を計画していた。東京の長崎料理店でやっていた懸賞で、なんと羽田ー長崎の往復ペアチケットが当選したのだ。遠藤周作が好きで、隠れキリシタンに興味がある自分はもちろん、母は新聞で読んだ島原鉄道の観光列車に乗ってみたかったらしく、とても楽しみにしていた。
それなのに、甲状腺の具合が悪いだと?混乱しながらも夜に電話した。市内の病院で見てもらったが、検査結果を待たないといけないとのことだった。
「わたし、そっちに行こうか?」
「ん?何で?仕事?わたしのことなら大丈夫だよ」
わたしはどうしても母と長崎に行きたくて、事実を無理に楽観的に捉えることにした。甲状腺が腫れているだけかもしれない、悪い病気でもこんなに元気ならきっと大丈夫だと。これから母の身に何が起こるかも知らずに。