アラサーOLの備忘録

東京に暮らすアラサーOLです

「凶悪」

凶悪なのは誰だ

 

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

 

いわゆる「上申書殺人事件」についてのルポタージュ。今はなき月刊誌「新潮45」に連載され、話題に。山田孝之ピエール瀧リリー・フランキー出演の映画化でさらに有名になった。

 

死刑判決を受け上告中だった元暴力団組員が、誰にも知られていない殺人事件の首謀者・通称「先生」を告発するというストーリー。これだけでも面白い筋書きだが、現代の日本を取り巻く問題が浮き上がってくるのが興味深い。

 

土地つきでボケている年寄り、家族から見放されたリストラ対象者を狙う不動産ブローカーの先生と暴力団組員は運悪く(あるいは幸運?)共鳴する。先生はズル賢く頭脳を使い、ヤクザは専売特許である暴力を利用。良心を持った人間のふりをして大量の酒を飲ませ、人を殺し、金を奪う。

「(中略)酒だけ差し入れしていれば、勝手に死んでくれるから楽だよ」

という先生の言葉を、飲酒する全ての人を怖がらせると思う。

 

それにしても、よく簡単にこんなに人を殺せるなと感心するくらい、コロコロと人が殺されていく。土地に執着がありそうな田舎の人でも、周りから見放されていれば失踪しても気づかれない。殺されても、死体がなければ完全犯罪だ。このあたりは埼玉愛犬家連続殺人事件にも通じる。

 

実際に手を下した暴力団組員と、それを操ってぬくぬくと娑婆で暮らしていた先生。社会に縁を切られた人々と、それを遠巻きに見ていた人たち。事件の現場を歩き回る記者と、面白がって見つめるわたし(たち)。誰もがその行動によって、誰かを傷つける。たとえ「正しい行動だ」と確信したとしても。さて、本当に凶悪なのは誰だろう。

 

 

「雑誌ジャーナリズムは死なない」。その矜持が問われている。

しかし、文庫版のあとがきでこう記した記者が、その後新潮45の編集長になり、その雑誌が休刊(実質廃刊)になったのは、何とも皮肉な話だ(廃刊時の編集長は別の人物)。最近は右翼のための雑誌に成り下がってしまっていたが、素晴らしい記事もあったということは覚えておきたい。

 

 

凶悪

凶悪

 

山田孝之ピエール瀧が若くて驚く。あと体が細い。シリアスな山田孝之なんて久々に見た。ピエール瀧演じるヤクザの服装が絶妙にダサい。

 

怖い怖いと言われているが、正直そんなでもない。ただ、法廷のリリー・フランキー=先生の目は少し怖かったかな。映画では記者=山田孝之のバックグラウンドがたくさん描かれているけれど、それよりは犯人2人の絡みをもっと見せてくれよと思った。殺人シーンは確かに少し怖いけれど、ポップですごく笑えます。

 

あと、ピエール瀧がボソッというセリフが好き。

「人なんてさ、簡単に死んじゃうんだから。しょうがないよ」