アラサーOLの備忘録

東京に暮らすアラサーOLです

「僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話」

先日、デイリー新潮でこんな記事を読んだ。

NHKのアナウンサーだった塚本堅一さんが違法薬物(通称「ラッシュ」)の所持と製造で逮捕され、NHKを懲戒解雇された後の話をまとめたものだ。単行本が出版されるタイミングで取材を受けたのだろう。記事も本も、なかなかショッキングなタイトルである。

 

とはいえ、彼のことを覚えている人はそう多くないはずだ。わたしが塚本さんの名前を覚えているのは、自分がマスコミの端くれ*1だったことが大きい。後追いでラッシュが男性同性愛者を中心に広く使われていたことを知り、彼のセクシュアリティと、セクシャルマイノリティがマスコミで働くことの難しさについて考えもしたけれど、本人が公言したわけでもない。彼と彼自身が起こした事件への興味は薄れていった。

 

そんな中での著者出版である。

自らのセクシュアリティをカムアウトするとともに、事件に至った経緯や事件後の処遇が分かりやすく描かれている。

 

印象的だったのは塚本さんが「職場が好きだった」ということ。職場を陥れるために事件を起こしたわけではない。しかし、好きなものが必ずしもストッパーになるわけでもないのだ。

 

罰金刑の後のうつ状態の時に比べ、留置場にいるときの呑気さには驚いた。接見した弁護士に「ご飯でも行きましょう」と言えるくらいの元気があるのだから。しかし、NHKを懲戒解雇されてからの描写はとても悲しいものがある。繋がりがなくなる、あるいはないと思うと人間はダメになる。貯金や住居があれば少しは楽かもしれないが、根本的な解決にはつながらない。

 

この本の中で紹介されている通り、WHOはライフスキルの構築を推奨している。

強いストレスを感じたときにどう対処するか、効果的なコミュニケーションをとるにはどうすれば良いのか。「そんなの当たり前にできるじゃん」という人もいるかもしれないが、休職前の自分はそれが全く身についていなかった。学校で教わった覚えはなく、家にはライフスキルと逆を行く病んだ父親がいた。

 

結果的に強いストレスにさらされたとき、わたしは根本的な問題解決に臨むことなく、アルコールに逃げた。自殺しなかったのは幸いだし、強い依存性のある薬物にいかなくてよかったとは思うけれど「わたしの人生全然幸せじゃない」と感じることが多く、辛かった。表面的に上手くやることと、ライフスキルを身につけることは全くの別物である。

 

休職し、カウンセリングやリワークに通ったことで自分のことが(少しは)認識できるようになったと思う。関係を壊さない断り方を学ぶなど、これからの人生で役立つこともたくさん学んだ。

 

でも、それはお金があるからできたこと。塚本さんが精神科や依存症回復施設につながったのは幸運なことで、日本では依存だと認識していても医療機関につながれない人がたくさんいる。「ダメ、絶対!」では解決できない問題が日本には横たわっている。

 

興味半分で読んでも十分面白い本だった。書き手としてのレベルは正直まだまだだと思うけれど、読みやすいし、彼の講演は元アナウンサーという点を加味しても非常に興味深いものだろう。ホームページやSNSなどは開設されていないようだが、機会があればぜひ話を聞きたいと思う。

 

*1:NHKとは比べ物にならないくらいの零細企業