アラサーOLの備忘録

東京に暮らすアラサーOLです

裁判傍聴に行ってみた3

 被告人が入廷した。両手は縄で後ろ手に縛られ、手錠がかけられている。お縄にかかるという言葉はあるが、裁判所でその存在を実感することになるとは。手錠もテレビではモザイクがかけられることが多いので、この目で初めて見た。銀色で冷たく、しっかりと重みのありそうな手錠が生々しい。

 

 想像通り、入廷してきたのは埼玉県で少女を誘拐し、自宅で監禁した罪に問われている寺内樺風被告だった。黒無地のスーツで髪は短く切りそろえられ、中肉中背。背はそれほど高くはない。肌は白く、逮捕された時の写真とは印象がだいぶ異なる。以前は清潔感がなく、得体の知れない気持ち悪さを感じたが、自分の5m先にいた寺内被告は丸の内にいる20代の会社員と見た目は変わらないように見えた。以前の裁判では不規則発言で退廷させられたこともあったが、今日はそんなことを始める様子はない。(顔写真、事件の概要は以下の記事参照)

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 東京高裁での第2回控訴審検察側の証人として社会心理学者の西田公昭氏が出廷。検察官が「専門家の立場から」と話していたので学者か医者だとは理解していたが、まさかオウム真理教関連の裁判でもよく名前を拝見する先生だとは。ちょっと感動した。

 

 心理学の専門家で多くの裁判に召喚されているとはいえ、少しでも西田氏をリラックスさせようと検察官がやけに微笑みながら質問をしていたのが印象的だった。ニコニコとしていて、場所さえ違えば接客業のようだ。しかし、その目的が裁判官にもわかるような言葉を専門家から引き出させることなので「あえて笑顔をつくるのも作戦のうちなんだな」と感心してしまう。西田氏は明るく、慣れているのかそんなに緊張していない様子だった。

 

 検察官「さいたま地裁の判決に違和感を感じる部分はありますか(ニコッ」

 西田氏「あります。『逃げられるという環境が認知できるときがあった』とありますが、自由意志で逃げられるかといえば実際は違う。心理コントロールが効いている状態です」

 西田氏によれば、心理コントロール(操作)が効いている状態というのはこの事件の場合①情報を断つ②円満な対人関係を断つ③メッセージを植え付けることを指す。③については誘拐後「親は君を捨てた。臓器売買の危険から、自分が保護してやる」と虚偽の説明をしたことをいう。少女は音声合成ソフトで作られた音声で臓器売買について繰り返し聞かされた。「不気味なものだった、と聞いています」(西田氏)。そして「私は捨てられた」と何度も書かされた。

 

 こうして両親に対する信頼感を徐々に減らしていった。すると「この人(寺内被告)に頼らなければいけない」という心の揺らぎが生じてくる。この事件では少女が発見される前に外に出ていたことがあって、そのとき「助けて!」ではなく「ちょっとすみません」と近くにいた人に声をかけていたことがあった。これがさいたま地裁の判決の「逃げられるという環境が認知できる」という部分に当たるのだろうが、これは情報を遮断された人間が自分の置かれた状況を確認したい=すみませんと声をかけることは自然なことだと西田氏は指摘する。彼女は勇気を振り絞って通行人に声をかけた、決して自由な環境があって出た「ちょっとすみません」ではなかったと。

 

 不幸なことに通行人で彼女の声に耳を傾ける人はいなかった。それは平日の昼間に部屋着の中学生が公園にいるという異様さが要因かも知れない。だが、その環境も被告がつくりだしたもので、それが彼女の行動に反映された。監禁が2年の長期にも及んだ最大の原因は被告人の心理操作により、彼女が「帰る場所がない」と思わされたことだと西田氏は説明した。(続く)

 

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 メモを書いてみた。傍聴人の中でメモを取る人は半分くらい。