アラサーOLの備忘録

東京に暮らすアラサーOLです

富山への旅7

(続き)

 旅の準備を全くしていなかったわたしに、宿は申し訳ないほど優しかった。出発直前に届いたメールには「おわら風の盆の前夜祭があるのでバスを運行します。いかがですか」という丁寧な文章が添えられていた。

 

 「おわら風の盆」は富山県八尾町(現・富山市八尾地区)の夏の祭りだ。日本の民謡には珍しく「越中おわら節」には胡弓が使われ、繊細な踊りとともに切なさを感じさせる。徳島の阿波踊りと違って派手さはないが、情緒的な雰囲気が人気なのか、多くの人が富山を訪れる、らしい。八尾に向かうバスのなかで宿の方がそう案内してくれた。

 

 おわら風の盆で思い出すのは、新聞の文学コーナーで取り上げられていた高橋治の小説「風の盆恋歌」で、昔好きだった人の家の本棚にあったのを覚えている。別に決められた人がいながら恋に落ちる二人がおわら風の盆で密かに逢う、というあらすじだった(ような気がする)。常に女の影がありながら、ある人妻のことが忘れられなかったわたしの好きだったひと。本は手にとるだけで読まなかったけれど、どうせなら彼に借りるねと言ってそのまま別れればよかった。

風の盆恋歌 (新潮文庫)

風の盆恋歌 (新潮文庫)

 
月影ベイベ 1 (フラワーコミックスアルファ)

月影ベイベ 1 (フラワーコミックスアルファ)

 

漫画「月影ベイベ」もかなり小説を参考にしていると思う。

 

 祭りが前夜祭と本祭に分かれているのも知らなかったが、本祭は会場となる八尾の近くまで交通規制されるらしく「むしろラッキーかもしれません」と言われる。前夜祭は町内ごとに行われ、それぞれ踊りが異なります、今夜の西町は土蔵造りの家や酒蔵が残っているんですよ。どの説明も初耳で、感心するばかり。胡弓は繊細な楽器で湿気に弱く、雨が降っていたら中止されるらしい。窓の外には小雨がぱらついていたがバスが20分走ったあたりで曇り空になっていて、なんとか開催されそうだった。

 

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 目の前で見るおわら風の盆はたしかに情緒的で、自分より若い子が踊っているはずなのになんでこんなに切ないんだろうと思った。手の先まで神経が通っている。帰りのバスで踊り手として参加するのは未婚の男女25歳までだと知った。それを過ぎたら地方になったり、教える側に回ったりするらしい。まるで大人になるための儀式のようだ。

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   わたしは25歳を過ぎて随分経ったはずなのに、まだまだ子どもだな。

 

(続く)