アラサーOLの備忘録

東京に暮らすアラサーOLです

富山への旅6

(続き)

 

 ジャグジーで泡が出続ける秒数をカウントしていたら、もうすぐ夕食という時間になっていた。慌てて髪を乾かしつつ、部屋に戻る。「館内は浴衣で過ごせる」と案内されていたが、浴衣の帯がうまく結べないほど不器用なので、ロングワンピースに着替えてレストランに向かう。

 

 予約するときにフレンチか和食か選べたのだが、注意書きを見落として選択していなかった。そのため「朝食が和食だからフレンチにならないかな」と願っていたら、幸運なことにフレンチに案内された。感じがよくハンサムなウエイターに挨拶をしながら席に着く。

 

L'évo | レヴォ:フレンチの固定概念にとらわれず、郷土料理の枠にもはまらない。富山から発信する前衛的地方料理。リバーリトリート雅樂倶のメインダイニング

f:id:ventodelsud:20180919230811j:image

 地元のビール「越中風雅」を飲みながら外の景色を眺める。ビールは香りは良いが飲み口が軽すぎて、最初からワイン飲んでおけばよかったかなあと少し後悔した。「苦手なものはないと伺っております」とウエイターににっこりとしながら言われたので、本当はあるけれど大丈夫です、と彼に負けない笑顔で返した。これが壮大な前振りになるとは知らずに。

f:id:ventodelsud:20180919230909j:image

 前菜は見た目から美しいフィンガーフード。ムースを挟んだマカロン、エビがのった煎餅、ヤギのチーズのシュー皮・・・料理の温かさによって皿が違って可愛い。

 

 「牡蠣のフリッターでございます」。え、と言葉に詰まった。小学生のときに給食で出たクラムチャウダーを吐いてから、怖くて貝は口にしないようにしてきたからだ。いつもは自分で注意するだけではなく、友達や取引先と食事に行くときにも配慮してもらっていたのに、今回はレストランの予約を忘れていたので苦手なものも伝えていなかった。これは無理。食べられない。

 

 体調が悪いと言って残してしまおうか、誰かと2人で来るべきだったか、と考えれば考えるほど、フリッターの衣が存在感を主張してくる。結局「アルコールで流し込めば何とかなりそう」という生産者が泣きそうな結論を出して、一口食べてみる。「ええい、ままよ!」。そんな古語がぴったりな気持ちだった。

 

 衣に歯を立てた瞬間、トロッとした何かが口の中に広がってまったりと留まっている。これが牡蠣なるものか。 高温で揚げられているからか、特有の臭みがない。意外と吐かないから富山の日本酒飲んでみよう。あ、イケる。

 

f:id:ventodelsud:20180919231251j:image

 海の幸は続き、ふわっと火入れされた鱧を白ワインと堪能した後に出てきたのは新湊のツバイ(バイ貝)。また貝?もう無理だって。バイ貝ってモロに貝じゃん、と怯えつつ匂いを嗅ぐ。ソースは烏賊墨とコクのあるバターが混ざり合って濃厚だが、油断はできないので噛まずにソースだけ舌で拭き取る。「あ、やっぱり濃い。バターの香りが漂ってくる」。貝は身が引き締まってコリコリしている。噛めば噛むほど味がじわっと出てくるけど、これはおいしいかもと白ワインと合わせていたら完食していた。恐るべき富山である。苦手な貝を食べている間、いつのまにか天気が悪くなり、峡谷に霧が出ていた。

f:id:ventodelsud:20180919231155j:image

 

 「Virgin egg」は鶏が初めて産んだ卵で、大好きなポーチドエッグに。出汁とヤギのチーズのソースがしょっぱくて、ポーチドエッグのふわふわした食感に良い意味で引っかかる。

f:id:ventodelsud:20180919231052j:image

 最も印象的だったのがレストランの名前が冠された「レヴォ鶏」。地酒の酒粕を餌に生後45日まで育てられた近くの農家の鶏で、中にはおこげが詰められている。見た目はもろに鶏の足だが、おいしく食べることが供養になると信じているのクチなので手を使ってガブッといった。表面にどぶろくがひと塗りしてあって、鶏と米って合うんだなと実感。命をいただいているのをこんなに感じたことはなかった。鶏を絞める瞬間ってどんな感じなんだろう、自分はできるのだろうか、とフィンガーボールで手を洗いながら考える。

 

 甘鯛はパリパリの皮とほろっと崩れる身がソースとからまる。仔猪を焼いたのは身が引き締まっていて、猪特有の獣臭さがないのがよかった。大味でなく、すっきりした赤ワインにも合う。これも多分直前まで生きていたんだろうな、と思いつつ噛みしめる。肉のソースを3種類のパンにつけて食べたけれど、根が労働者なので米粉パンをそのまま食べるの一番おいしかったです。

 

 アロエのデザートとバタバタ茶なるお茶で〆。結局ビール、日本酒、白ワイン、赤ワインと4杯も飲んでしまっていた。ウエイターからも「顔が赤くなっていますよ」と言われるレベルだったが、料理とお酒のマリーアージュが素晴らしいフレンチだった。シェフやウエイター、ウエイトレスそれぞれが力を持っている。そして前衛的。家族連れよりは恋人や友達とワイワイ言いながら楽しむのが良いのかな、と部屋に帰りながら既に次回泊まるときのことを考えていた。

 

 鶏を食べているときに思い出した本は大好きな一冊。

食肉の帝王 (講談社+α文庫)

食肉の帝王 (講談社+α文庫)

 

 

(続く)